家庭用のルーター(ブロードバンドルーター)やスイッチングハブ(L2スイッチ)の話です。
ハブとIPアドレスを関連付けて考えている方は、おそらくこのあたりを誤解されているのではないかと思います。
設定についてマニュアルに特に何も書かれていないスイッチングハブ(ふつうの家庭用スイッチングハブ)には設定はありませんので設定画面もありませんしそれを呼び出すIPアドレスというのもありません。
設定があるスイッチングハブの場合は設定用のIPアドレスを持っている場合がありますがその場合はマニュアルに記載があるはずなのでそちらをご覧ください。
口から口へデータを伝えるというハブの本来業務のためにはハブ自身はIPアドレスを持つ必要がありません。ハブ自身の設定用に必要とかでなければIPアドレスはついていないと思います。
スイッチングハブはつながっている機器のIPアドレスの割り当てにはいっさい関与しません。ハブの口とIPアドレスは関係ありません。
ブロードバンドルーターのLAN側に並んでいる口はルーターの背中にくっついているスイッチングハブの口です(ここがおわかりでない場合はまずこちらをどうぞ)。あの口にひとつずつIPアドレスが割り当てられていて、どの口につなぐかで機器のIPアドレスが決まる、と誤解されている方が多いようですが、あれもハブの口ですからIPアドレスとは関係ありません。
IPアドレス自動取得に設定されている機器のローカルIPアドレスはルーターの中のDHCPサーバーが割り当てます。ハブは素通りですのでどのハブのどの口につないでもIPアドレスの割り当てとは関係ありません。DHCPサーバーにはハブは見えていないので、どの口につながっているかでIPアドレスを決めるなんてことはそもそもできません。
IPアドレスが固定で設定されている機器のローカルIPアドレスは設定どおりになります。この場合どのハブのどの口につないでもIPアドレスは同じです。設定の際にハブのことを考える必要はありません。参考→ローカルIPアドレス自動取得vs固定設定
ハブはデフォルトゲートウェイやDNSサーバーにはなりません。設定用IPアドレスを持っているハブの場合でもなりません。その先のルーターのIPアドレスを指定してください。
ポート開放にハブは関与しません。素通りです。ハブのことは考えずにルーターと末端の機器だけ設定すればOKです。ちなみにポート開放の「ポート」はソフトウェアの中の存在で、ハブのLANポートとはまったく無関係です。
いいえ。なぜだかPoEとIPアドレスを絡めて検索してくる方が多いですが、PoEの給電・受電とIPアドレスの割り当ては無関係です。
IPアドレスに関してはハブは基本的に、関与しない、素通り、透明、なくてもあってもタコ足にしても関係ない、と考えるとわかりやすいかもしれません。
L2スイッチのL2(レイヤ2)というのは下図の「イーサネット」の一部です。IPアドレス(レイヤ3の世界の話)には関与しないから「L2」スイッチと名乗っているわけです。
ちなみにアクセスポイント(ブリッジモードにした無線ルーター)とIPアドレスの関係もハブの場合と似たようなものです。アクセスポイント自身はIPアドレスを持っていますが、これはアクセスポイントの設定画面を呼び出すために使うだけです。つないだ機器のIPアドレスの割り当てとかポート開放とかにはアクセスポイントは関与しません。素通りです。
実はスイッチングハブが見ているのはMACアドレスというものです。ざっと図に書くとこんな感じです。
インターネットにつながっているコンピューターはTCP/IPで世界中とデータのやり取りを行うことができます。TCP/IPは世界規模の宅配便会社のようなものです。TCP/IPで宛先を指定するのに使われるのがIPアドレスです。TCP/IPでやりとりされるデータはIPパケットという入れ物に入れられてそのヘッダに宛先と送り元のIPアドレスが書かれています。
TCP/IPは世界規模を誇るくせにトラック等を持っていない宅配便会社のようなものです。実際の配送は地元の運送業者であるイーサネットに委託します。
イーサネットの世界で使われる宛先はIPアドレスではなくMACアドレスです。MACアドレスはメーカーが有線LANや無線LANの装置を製造したとき付けた装置の個体識別番号です。イーサネットでやりとりされるデータはイーサネットフレームという入れ物に入れられてそのヘッダに宛先と送り元のMACアドレスが書かれています。イーサネットフレームの中にIPパケットが入っていて、さらにその中に実際に送受信するデータが入っているという入れ子構造になっています。
TCP/IPは、送り先のIPアドレスに対応するMACアドレスを調べて、そのMACアドレスに送るようイーサネットに依頼します。送り先のIPアドレスが同じネットワーク内でない場合は、デフォルトゲートウェイのIPアドレスに対応するMACアドレスに送るよう依頼します。上図の一番右のイーサネットフレームの宛先がルーターLAN側のMACアドレスになっているのはそのためです。
IPアドレスとMACアドレスの対応を知っているのはTCP/IPです。イーサネットはIPアドレスのことは何も知りません。逆に、TCP/IPは、イーサネットの社内事情(ハブをいくつ経由しているのか、ハブの口がいくつあるのか、など)については何も知りません。
スイッチングハブはイーサネット運送の営業所なんですね。イーサネットの世界の存在ですから、IPアドレスは認識しません。MACアドレスだけを認識します。
スイッチングハブは、各口の先につながっている機器のMACアドレスを記憶するMACアドレステーブルというものを持っています。つながっている機器のMACアドレスを自動的に学習して記憶します。口の先にタコ足ハブがつながっている場合はタコ足の末端の全部の機器のMACアドレスをその口の先につながっているものとして記憶します。なのでスイッチングハブは口の数よりはるかに多くのMACアドレスを記憶できるようになっています。
スイッチングハブは、入ってきたイーサネットフレームに書いてある宛先MACアドレスと、中に持っているMACアドレステーブルを照合して、そのイーサネットフレームを送り出す口を決めます。イーサネットフレームは宛先を見るだけで素通りさせます。その中のIPパケットに書いてあるIPアドレスは見ません。ほんとに関与しないんです。
イーサネットは地元の運送会社なので、家の中のイーサネットの配送エリアはルーターより内側だけです。ルーターの外側←→内側はルーターが中継します。 ルーターは、受け取ったイーサネットフレームからIPパケットを取り出して、ヘッダのIPアドレスを書き換えてWAN側←→LAN側の橋渡しをして、反対側のイーサネットに配送委託し直します。
ちなみに無線LANアクセスポイントもMACアドレスで宛先を認識します。有線LAN用のイーサネットフレームと無線LAN用のフレームを相互変換しますが中身のIPアドレスには関与しません。アクセスポイント自身の設定用IPアドレスは、アクセスポイントに内蔵されている設定用コンピュータをパソコン等から呼び出すためのもので、アクセスポイントを通過してやりとりされるデータにはなんの関係もないです。
DHCP、固定IP、NAPT、ポート開放、デフォルトゲートウェイ、DNS、IPv4、IPv6などはTCP/IPの世界の話であり、スイッチングハブやアクセスポイントはこれらについては無関係です。雲の上でそのようなことが行われているとはつゆほども知らずに黙々とフレームを配送するだけです。(アクセスポイント内の設定用コンピューターがIPアドレスを取得するためにはDHCPや固定IPは関係します。)
もっと詳しく知りたい方はすみませんがいろいろぐぐったり本を読んだりしてください。